80年代の漫画は、大友克洋自身とその影響を受けた人々が漫画の枠を広げたと言える。
大友克洋の個々の絵、表現、ストーリーを取り上げだすと取り留めなくなるので、
ここでは、いくつかの単行本を取り上げて紹介したいと思う。
これ以降の時代、大友克洋の影響を受けていない漫画家はいない
80年代の漫画として、大友克洋の「ショートピース」をあげるとすると、発売が79年だから、少々のズレがある。
けれど、この作品集に影響を受けた人々が、80年代の漫画表現を席巻したといっても過言ではないので、「ショートピース」を80年代の漫画のルーツとさせていただく。
大友克洋の「ショートピース」は、いくつかの短編をまとめた単行本だ。どのストーリーも、その当時としては奇抜なもので、独特の読後感を与えられた。
個人的には、なんだかザラッとした妙にリアルな夢を見たような印象が残っている。
「あ~、ある!ある!」といった共感する気持ちとも違う、身近なようで、どこか遠いところの出来事…というべきか。。。

WHISKY-GO-GO より
ざらっとした感じは、多分劇画の流れを汲んだ絵柄のせいかもしれない。でも、劇画と大きく違ったのは徹底的に絵が上手かったことだ。
光と陰をコントラスト強く描くと劇画調になるのだが(簡単に言い過ぎですみませんw)、的確な陰はデッサン力がないと描けない。多くの劇画は、その辺りを勢いと雰囲気でごまかしているのだけど、大友克洋のそれは正確無比なのだ。
大友克洋の絵は、この後より細かい描写の方向にいくのだけど、やはり表現方法が変わっても元から絵が上手い人は違うのだなと思わせられる。
ショートピースの中で特に印象に残っている作品
なぜ?「宇宙パトロール・シゲマ」でなく、「ROUND ABOUT MIDNIGHT」でなく、「犯す」ではないのだ!?といわれるかもしれないが、個人的にこれが好きなのである。
「大麻境」に登場する、セコくて、ビンボーで、ノー天気な登場人物たちは、あの時代もっとも平均的な大学生だ…私の周りだけかもしれないが、そいつらが起こすドタバタ劇なのだ。
しかしなによりも、印象に残っているのが、あの劇中の夏の暑さだ。
変なところに引っかかるなあと思われるかもしれないが、かつて下宿暮らししていた身としては、つい思い出されてしまうのである。
他の短編集「ハイウェイスター」の「スカッとさわやか」の暑さも印象的だったのだけど、「大麻境」はより身近に感じたのだ。
大友克洋のこのころの絵は白いと評されるのだけれど、今思うとあのコントラストのついた画面が、夏の暑さを表現するにはいちばんはまっていたのかもしれない。

短編集ならではの扉絵がすごい

大友克洋の作品の楽しみの一つに、扉絵がある。
書き下ろしが多い大友克洋なのだけど、この頃は短編を発表し続けていて、それらを集めたものがこのショートピースなのだけど、後の童夢やAKIRAなどは、書き下ろしのため基本的に扉絵がない。
だが、短編集にはそのストーリーに絡めた扉絵がつくのだ。
今はそれほどに感じないかもしれないが、その当時には衝撃的なほど画力を感じたのだ。「ROUND ABOUT MIDNIGHT」は元々マイルスデイヴィスのアルバムジャケットの写しなのだけど、麻雀牌が写り込んでいるという仕込みにう〜むと感じ入ってしまったのだ。(昔は単純だったw)

そしてショートピースからはもう一つ。
この頃、大友克洋の絵は画面が白いと言われていたようで、本人もインタビューでそのことに触れていた。
特になぜ白いのかと言うことには答え図、困ったような返答をしていた覚えがある。
だが、そんなことは画力を見れば納得するはずで、絵を描く端くれとしては「なぜそんなしょーもない(画面が白いとか)所しか見ないのだろう?」と勝手に憤慨していたのだ。
背景を描き込んだり、コマごとにバックを描くことが良しとされていたのだろうか?
何れにせよ、絵力(えぢから)があれば、そんな汗臭いことは要らねーんだよ…と言うメッセージを私たち(少なくとも私の周囲は)は受け取っていたと思う。
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